【イタキス祭2020】関白(許可)宣言


Go to →イタkiss祭り2020参加作品です!
結婚式を控えた朝、ともに教会へ向かう重雄さんと入江くんのお話です。

脚本形式を意識したので、なんとなくそんな感じに読んでください!
以前書いた「相原重雄の抵抗」とちょっとつながっているようなそうでないような…


 

11月21日、晴天。
世田谷・入江邸前。停車する黒い高級車。
運転手が恭しく後部ドアを開け、入江直樹、相原重雄両名が乗車する。

ドアが閉まる音。
言葉少なく、緊張した気配を後部座席に乗せ、高級車は式場へと向かう。

車内。
後部座席に並んで座る直樹と重雄。しばしの沈黙。
重雄、ちらりと直樹を見やり、発言する。

直樹くん。
君をムコにもらう前に、言っておきてぇことがある。
かなり厳しい話もするが、おれの本音を聴いてくれや。

タイヤのきしむ音。静かなエンジン音。
直樹、無言だが、真剣なまなざしで重雄に向き合う。
重雄、緊張を解いて、口元だけでかすかに微笑む。

君も知っての通り、琴子のやつぁ出来の悪い娘でよ。勉強も運動もカラキシときたもんだ。
足りねぇ部分は、まあ山ほどあるが、だけどその分可愛げのある、情の厚い娘に育ってくれた。

車が一旦停止。
ウインカーの音。のち、大きく右折。

親のおれが言うのもなんだが、ありがたいことに、あいつには味方が多いんだな。
友人然り、君のおかあさん然り。…言いたくねぇが、金之助然り。
悪いね、イヤなこと思い出させちまったかな。

でもな、知っておいてくれ。あいつは、そういう娘なんだ。

重雄、直樹から視線を外し、車窓を遠く見つめる。

琴子の母親、おれの女房もそんな女だった。
天真爛漫で、裏表なくて、いつも一生懸命で、いつの間にか周りを巻き込む。

おれと女房の共通の知り合いは、もれなくあいつの味方になったもんだ。
ケンカして家出されたこともあったけど、そんなときゃあ、みぃんなあいつの味方だよ。
ケンカの原因がなんだって、必ずおれが責められる。あんないい娘泣かせるんじゃねえっつってな。
いやあ、肩身が狭かったね。…それがイヤではなかったけどな。

えっ?惚気かって?
そーかもなァ。こんなこと、普段はとても言えねぇが。おれは…今でもあいつに惚れてんだな。
おっと。琴子には内緒にしてくれよ!

重雄、まばたきほどの瞬間微笑んで、すぐに真顔に戻る。

で、だ。直樹くん。ここからがおれの本題だ。

ブレーキ。
車が信号によって停車する。
車外から漏れ聞こえる横断歩道の音響装置音。

君の事だから、琴子と夫婦になっても、きっとあいつを甘やかしたりしねえだろう。
今までとおんなじように、あいつの根性を叩きつけて、導いてやってくれるだろう。
おれは、それでいいと思っているよ。甘やかすよか、そっちの方がよっぽどいい。

音響装置が警告音に変わる。
車、静かに発車する。

でもな、ケンカになったら、たぶん、多くがあいつの味方をするだろう。
あいつの味方をするってこたあ、つまり、君が責められるってことだ。
君のおかあさんなんか、今までもそうだっただろ。琴子の父親として、正直申し訳なかったがね。

重雄、小さくため息を吐き、目を伏せる。

琴子には疎いところもあるから、あいつの気付かねえとこで、君は理不尽を感じることもあるだろう。不愉快なことも、たぶん。
にも関わらず、責められるのはいつだって君の方になっちまうんだろうな。おれが、そうだったように。

沈黙。

車が教会に到着する。直樹、重雄、ロータリーにて下車。
重雄、明るく微笑み、直樹の背に手を添え促し歩き出す。

だからよ、せめて、おれくらいは、君の味方でいようと思うよ。
君はすこぶる頭がいいし、考えナシに行動したりしない。琴子にはもったいないくらいの立派な男だ。
君を信じているから、おれは、なるべく君の味方でいると約束するよ。

新郎控室前。向かい合う直樹と重雄。

でもな。
わかってると思うが、おれが君を信じる一番の理由は、君が、琴子の愛した男だからだ。
そのことも、忘れないでくれよ。おれにとっても琴子は、生涯ただひとりの娘なんだから。

おっと、しんみりしちまったな。まあ、なんだ。
つまり、おれが君に怒った日にゃあ、よっぽどだってことだからな!

重雄、新郎控室のドアを開き、直樹の入室を促す。
閉まりかけるドア。重雄の莞爾。

まあ、君に限って、そんな日はこねえだろうけどよ!

バタン。

沈黙。
踵を返し、新婦控室へ向かう重雄の後ろ姿。靴音。
カメラは窓の外へ。雲一つない空。遠景。

終幕


 

イタキス台湾ドラマ版では、鴨狩事件の折に相原パパが直樹を叱りつけて殴っています。自分はそのシーンを見て、すごく胸を打たれまして…結婚前から、あんなにも温かい目で直樹くんを見守ってくれていた相原パパを怒らせるなんてよっぽどだな、と。

原作を何度も読み返して、相原パパが娘である琴子ちゃんよりも直樹くんに理解があるようなふるまいをするのはなんでだろうな、と心情を妄想して、このお話みたいな風に思ってるのかな~と。紀子ママが圧倒的に琴子ちゃんの味方だし😅

読んでいただきありがとうございました。
このお話をもって、当サイトのイタkiss祭り2020は終演にしたいと思います!
約1か月半、テキスト作にお付き合いいただきありがとうございました。こんな短期間のうちに数本の文章書いたの久しぶりでした!

この後はまたお絵描きの更新で頑張りたいと思います\\└(‘ω’)」//